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   脂肪肝  Q&A  :非アルコール性、代謝障害関連のもの 

​脂肪肝の原因は、いろいろありますが、ここでは近年増えている非アルコール性の代謝障害に関連する脂肪肝の説明です。メタボリック症候群にも関係があります。

≪非アルコール(代謝障害)性脂肪性肝疾患および肝炎:MASLDとMASH≫

注)日本語正式名未発表、代謝障害に関連する脂肪肝=以下 MASLD (metabolic dysfunction associated steatotic liver disease),  代謝障害に関連する脂肪性肝炎=以下 MASH (metabolic dysfunction associated steatohepatitis)

近年、食生活の欧米化や運動不足に伴い肥満・高脂血症・糖尿病患者が増えてきています。それに伴い、アルコール摂取とは関係のない非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)の患者が増えてきています。NAFLD(MASLD)はメタボリック症候群の肝臓型ともいわれ、動脈硬化性血管疾患、肝臓がん・大腸がん・乳がんなどの悪性疾患の発生率が高いなど注意すべき疾患です。

Q&A  「脂肪肝」とはなんですか? 

肝臓の細胞に、中性脂肪が過剰に蓄積してしまった状態を「脂肪肝」といいます。大別すると、アルコール性のものと、非アルコール性のものがあり、後者は近年爆発的に増えています。「非アルコール性脂肪性肝疾患(NASLD)」と呼ばれていましたが、代謝関連障害がベースにあることより、呼称を「代謝機能異常に関連した脂肪性肝疾患(MASLD)~肝炎(MASH)」に変更されています。MASLDは動脈硬化性心疾患、肝不全・肝がんをはじめ、大腸がんや乳がんの発症率を高めたり、糖尿病を合併しやすかったりすることなどが問題になっています。「糖尿病」が「血糖値」を指標とするのに対して、「MASLD」は肝臓の脂肪蓄積を指標とする代謝障害です。

Q&A  MASLD(代謝機能異常に関連した脂肪性肝疾患)は、どのような原因で増えていますか?

「生活環境」「食事環境」の変化が大きな原因です。 便利な食生活、便利な移動手段による運動不足など、現代の社会環境が生み出した病気であり、肥満、糖尿病、脂質異常症、高血圧などのメタボリックシンドロームと密接に関連があります。戦後、日本の食文化は 西欧化し、飽食の時代になりました。その結果、主食である「穀類摂取量」は減り、「動物性脂肪」や「動物性タンパク質」の摂取量が増えたのです。さらに、飽和脂肪酸を多く含む加熱調理も増え、血糖を上げやすいファストフードや甘味料、パン、菓子、吸収の早い清涼飲料水などが容易に手に入るようになりました。 このような食事が、インスリンの基礎分泌上昇やインスリン過剰分泌を引き起こし、さらに高脂肪食が腸内ホルモンのバランスを崩し、インスリン抵抗性体質も引き起こしてしまうのです。その結果、脂肪の過剰生産、脂肪蓄積がもたらされ、脂肪肝や内臓脂肪蓄積となります。 動物性脂肪摂取量の増加が、インスリン過剰や機能不全を引き起こし、糖質からの脂肪合成を促進していると考えられています。 さらには、交通手段の発達などにより、歩くなどの日常生活の運動量低下も大きく関与していると思われます。

Q&A  食事や運動だけでなく、遺伝的体質なども関与するのでしょうか?

MASLDの中には「PNPLA3」という遺伝子の多型が関係しているものがあります。日本人は、この多型が多いため、痩せていても(BMI22以下)、肝臓に脂肪がつきやすく、太っていないのにMASLDになっている人も多いと言われています(もちろん、太っている人はさらに罹病率が高くなります)。 こういう人は、健康診断などで脂肪肝を指摘された場合、心血管性疾患や肝硬変・肝がんへの進展に注意する必要があります。

Q&A  MASLDを放っておくとどうなるのですか?

MASLDの人は、動脈硬化性心疾患、悪性疾患(肝がん、大腸がん、乳がんなど)の罹患率が高く、さらには糖尿病動脈硬化からなる腎臓病や認知症など、肝臓以外にも広い分野の病気のリスクが高まります。さらにMASLDが進行し肝臓の炎症が強く線維化が促進された状態になると、「代謝機能障害に関連した脂肪性肝炎(MASH)」という段階に進行し、肝硬変・肝不全、肝がんへの進展のリスクが高まります。 MASLD/MASHだけが指摘されている場合、病気としての認識が低く、自覚症状がないからと放置していた結果、このような病気に進展するケースがあり、問題となっています。

Q&A  MASHはどのように診断されるのですか?

MASHは「非飲酒者である」「組織所見が脂肪肝炎」「ほかの原因による肝疾患の除外」の3項目を満たすことで診断されます。原則的には、男性であれば「アルコール換算で男性30g/女性20g未満/日」(男性30~60g/女性20~50gはMetALDとして別の概念)程度しか飲まないのにもかかわらず、脂肪肝を認めた状態となります。正式に診断するためには「肝生検」といって、肝臓の組織を実際に採取して病理診断で確認することが必要です。MASHの病理学的診断基準としては、「肝臓組織の脂肪浸潤が5%以上」「肝臓組織での炎症細胞の存在」「肝細胞のバルーニング・炎症・壊死などの肝細胞障害の存在」「線維化が存在すること」などがあります。

Q&A  MASLDからMASHへはどのように変化するのですか?

MASLDの状態から、さまざまな複合的要因の結果、MASHに至るという説が今は有力です。つまり、MASLDと診断された状態ですでにMASHへのカウントダウンが始まっており、心血管病の合併リスクやmetabolic dysfunction(代謝障害)に関連する障害、インスリン抵抗性、脂質異常症や悪性疾患のリスクが高まっているということです。MASHになってからではなく、MASLDの段階から治療や介入が必要なことは言うまでもありません。

Q&A  MASLD/MASH の肝機能検査で数値の目安がありましたら教えてください。

血液検査の数値だけでMASLDであるという質的診断は今のところできません。このような検査では、ウイルス肝炎や自己免疫性肝炎など、ほかの要因で上昇している場合もあるため、それらの除外診断を行ったうえで、画像診断や肥満、耐糖能障害や脂質異常症の有無など臨床要件をみて判断しなくてはなりません。血液検査値は「あくまで進行度合いを判断するための参考値」と捉えたほうが良いと思います。

Q&A  MASLD/MASHは、どのように治療するのですか?

食事について見直しが必要です。まずはカロリー制限ですが、内容も重要です。食事はPFCバランス(糖質57.5%、蛋白17.5%、脂質25%)を考え、食事摂取量、特に飽和脂肪酸の多い動物性脂肪を制限し、インスリン抵抗性を誘導しないような、インスリン分泌量の低い糖質を摂取することが必要です。糖質は、白パンや白米、うどんなどの精製された糖類や果糖ではなく五穀米、玄米、ブロッコリー、ほうれん草や豆類、食物繊維の多いものを摂るようにし、脂肪が付きやすい「油ものと糖質の同時摂取」は控える必要があります。間食 (菓子やスナック)に多く含まれるトランス脂肪酸も体内で分解されにくく蓄積性が高いため避けるべきです。多価不飽和脂肪酸を多く含む青魚や、ビタミンEを含む緑黄色野菜を積極的にとることに注意。 治療の基本としては、手軽な物、美味しい物を好きなように食べることや、満腹になるまで食べて「あとで運動すれば良いや」という発想は改め、食生活のコントロールを続けることが重要です。カロリー摂取量が多いのは問題外ですし、アルコールももちろん制限した方が良いでしょう。

Q&A  運動療法はどうですか?

脂肪を落とす運動療法ですが、中性脂肪の分解には体内に酸素を多く取り込む必要があるため、有酸素運動を取り入れることが重要です。心拍数を上げるジョギングなどはとても良いです。「内臓脂肪のみで脂肪肝のない人」と比べると、「内臓脂肪が少なくMASLDのみの人」は、特に筋肉でのインスリン抵抗性が強いといわれています。一般的に、インスリン抵抗性は筋肉に強く表れるので、逆に言えば、インスリン抵抗性改善のためには、筋肉を有酸素運動でよく使用することが重要なのです。大きく体重を落とし体質を改善した結果、MASHの線維化が改善したというケースも報告されていますので、MASLD/MASHを問わず、食事療法・減量・運動療法による代謝改善は、治療の基本と言えます。

Q&A  MASLDからMASHへの進展についてはどのように診断するのですか?

MASLDがMASHに進展しているかどうかは、日本では病理組織での炎症や線維化を確定するのが必須です。最近はフィブロスキャンやエラストグラフィなど線維化のみで判定する方法も提唱されています。日本でも、日常的にはFib4 Indexやエラストグラフィで見てから、確定診断の際に肝生検による病理診断を行います。MASHまで進行すると、効果的な治療は困難ですので、線維化の傾向がある患者をいかに早期に発見し、医療介入できるかが重要です。

Q&A  治療薬や予防薬はあるのですか?

肝臓の脂肪を抑えるには、ビタミンEω-3(オメガスリー)脂肪酸、PPAR-α作動薬のペマフィブラート、ウルソデオキシコール酸などが知られています。さらに、糖尿病があればメトホルミンやピオグリタゾンなどのインスリン抵抗性改善薬GLP-1作動薬SGLT2阻害薬も検討されます。これは脂肪肝(MASLD)の治療と糖尿病の治療には共通する面も多いからです。 高コレステロール血症や高血圧もMASHへの悪化要因ですので、スタチンエゼチミブアンジオテンシンII受容体拮抗薬も試されています。「糖尿病および肥満症治療薬」として認可された「GLP1」アナログ製剤のセマグルチド注射薬も、体重を落とす効果が強く、肝臓の脂肪を落とすのにも有用な候補薬と考えられます。脂肪肝の治療は、単に肝臓の脂肪を落とすというだけではなく、肝硬変・肝がんへの発症リスク(MASHへの進展)を減らし、さらには「心血管疾患の発症」や「悪性疾患の併発」を減らすという意味があります。

最後に

「MASHだけが危険な病気で、MASLDは安全」と思われがちな傾向もありますが、決してそんなことはありません。MASLDになる病態では、潜在的にインスリン抵抗性や脂肪合成過剰があり、内臓脂肪蓄積が進行しています。

自覚症状に乏しく、健康診断での肝機能障害や腹部エコー検査で初めて指摘されることも多く、単なる肥満として看過すると、あとで種々の合併症を引き起こしかねません。MASLDの治療は、単に肝硬変や肝臓がんへの進展を警戒するのみでなく、動脈硬化性血管疾患や悪性疾患、メタボリック症候群の早期発見・治療という意味でも重要視されます。

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